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最高裁判所第一小法廷 昭和24年(オ)277号 判決 1951年2月22日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人の上告理由第一点について

しかし、本件当事者の事実上の主張、証拠の援用等口頭弁論の全趣旨によれば、被上告人は結局その抗弁事実の基礎を同じくし単にその態様を異にする死因贈与をも包含する広義の贈与なる正当権限に基づき本件家屋を占有する旨主張したものと解される。従つて、原判決が被上告人は上告人先代直から単純贈与を受けたのでなく、直の死亡の曉にはその居住していた本件建物を被上告人に贈与することを約し、その契約は、昭和一九年五月一七日直の死亡に因り効力を生じその所有権が被上告人に帰属するに至つたと認定しても、原審が被上告人の主張しない架空の事実を認めたとはいえない。論旨は、その理由がない。

同第二点について。

しかし、被上告人の抗弁は、前論旨で説明したとおり広義の贈与を主張したものと解されるから、原判決が所論のごとく「先代直が当時被控訴人に対し本件家屋を単純に贈与したのでなく」と認めたからといつて、直ちに被上告人の抗弁事実の存在しないことが明らかだとはいえない。しかのみならず、原判決は右認定に続いて「直は自分の死亡の曉これを贈与すべきことを約したのである」旨説明しているから、原判決の趣旨とするところは結局被上告人の抗弁事実を認めたものであること明らかであるから、原判決には所論の違法はない。本論旨もその理由がない。

同第三点について。

しかし、原判決挙示の証拠を綜合すれば、原判決の認定を肯認することができるから、所論は、結局原審の裁量に属する証拠の判断を非難するに帰し、適法な上告理由ではない。

同第四点について。

しかし、原判決が被上告人の抗弁事実を認定する証拠の一つとした所論第一審証人松岡又次郎の証言は、他の証拠と相待つて被上告人の抗弁事実を認めるに足り毫もこれを排斥する趣旨を包含するものとは認められないから、原判決が特にこれにつき説明するところがなかつたからといつて、何等証拠の判断を遺脱したとはいえない。本論旨も採用できない。

同第五点について。

原判決は、その判示によれば、所論のごとく被上告人が昭和六年三月下旬本件建物は勿論本件以外の全部の不動産を挙げて先代直より贈与を受けその当時所有権を取得したと認定したのではなく、その頃被上告人が上告人の先代直と同居していた本件家屋を直の死亡に因りて効力を生ずベき贈与契約を直と被上告人との間に締結し、昭和一九年五月一七日直の死亡に因りその契約は効力を生じ本件家屋の所有権は被上告人に帰属するに至つたものと認定したのである。されば、本件家屋の所有権取得を第三者に対抗する要件に過ぎない登記の有無又は履行の終らない贈与契約の取消に関する贈与の書面の有無等について原判決の説明が何等触れるところがなかつたからといつて、判決の理由に不備の違法があるとはいえない。所論は結局原判決の認定に副わない事実を前提として原判決の理由不備を主張するものであるか又は原判決が適法にした事実認定を非難するに帰するから、適法な上告理由とは認め難い。

同第六点について。

原判決は、被上告人抗弁の死因贈与契約の存在を認定したものであることは前論旨で屡々説明したところである。そして所論(イ)乃至(ハ)の事実は、いずれも上告人の先代直と被上告人との間に本件死因贈与契約を為すに至つた事情として推定家督相続人であつた上告人においても異議がなかつたことを述べたに過ぎないものであつて、これによつて右死因贈与の存在を認定したものでないことは判文上明らかなところである。されば、かかる事情の説明につき仮りに所論のような瑕疵があるとしても原判決に影響を及ぼさないこと明らかであつて、これを以て原判決の理由に不備ありとすることはできない。本論旨も採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斉藤悠輔 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野毅 裁判官 岩松三郎)

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